栞いろは歌  禅のことをもっと…

盗人を捕らえてみれば吾が子なり

臨黄ネット栞「ぬ」 盗人を捕らえてみれば吾が子なり(ぬすっとをとらえてみればわがこなり)

 暗い部屋は闇であります。その暗い部屋が闇であるから、その闇というものを取って除けて、それからそこが明るくなるかといったらそんなことはあり得ない。闇なんぞ取って除けられるものではない。闇というものが部屋の中にあるからと言ってその闇を取って除けたら明るくなるかというと、闇なんていうものはありゃせんのだ。しかし、灯を持ってくれば闇は自然になくなる。灯がつけば闇は取り出さんでも自然になくなるのです。悟りが開ければ煩悩はなくなるのです。取って除けるなどという努力はいらんのであります。煩悩が本来はないものだと分かるならば、煩悩即ち是れ菩提である。「盗人を捕らえてみれば吾が子なり」です。煩悩と菩提とが決して対立的な二つではない、別物ではないのです。悟ってみるならば、お腹がすいたら食べたいという、それが菩提じゃないか。疲れたら眠るという、それも菩提じゃないか。花が咲いたら赤いと見、柳を見たら緑と見ると同じことじゃないか。煩悩と菩提とが二つあるわけではない。煩悩と菩提との対立を超えたところに悟りというものがあるのだから、その対立を超えたところから見るならば、煩悩菩提は即ち無二である。

《原典・世語/引用・山田無文著『無文全集』第六巻「六祖壇経」(禅文化研究所)より》

写真 京都/建仁寺僧堂・禅堂